プリンター・インクジェット技術で世界に名を馳せるセイコーエプソン株式会社。新型コロナウイルス感染症拡大を機に、64年続いた紙の社内報をWebに切り替えました。印刷技術でビジネスを伸ばしてきた同社にとって、紙媒体からの転換は大きな決断でしたが、同社はそれを「非常にポジティブな変化だった」と語ります。社内報アプリは、インターナルコミュニケーションにどのような変化をもたらしたのか、広報IR部の皆さまに伺いました。
【導入目的】
- 働き方の多様化に応じたインターナルコミュニケーションツールを開拓する
- 双方向コミュニケーションによる自由闊達で風通しの良いコミュニケーション環境づくりを促進する
【課題】
- 60年以上続いた紙社内報からの転換
- 工場勤務、OBOG、内定者など、多様な立場の読者がいる
- 海外の拠点を含み、適切な情報管理・セキュリティ面での対策が必要
【効果】
- 効果測定をしながらタイトルの付け方など工夫ができる
- タイムリーに情報発信できる
- 画像や文字数に制限がなく、動画配信もできるため、配信できる情報のバリエーションが増えた
■セイコーエプソン株式会社
- 事業内容:プリンティングソリューションズ(オフィス・ホーム・商業・産業用プリンティング)、ビジュアルコミュニケーション(プロジェクター、スマートグラスなど)、マニュファクチャリング関連・ウエアブル(産業用ロボット、力覚センサー、ウオッチなど)
- 従業員数:79,805名、単体:12,784名(2021年9月30日現在)※社内報アプリの対象ユーザーはOBOGなどを含めて約21,000人
- 広報担当者様:広報IR部 武藤信雄様(課長)、手塚淳様、伊久美剛様、高橋昂平様、安江正之様、清水布美様
目次
コロナ禍をチャンスに。時代に合ったコミュニケーションプラットフォームへの転換
―― 1956年に創刊された紙の社内報は、歴史もあり、完成度も高いものでした。紙社内報からWeb社内報へ切り替えられた背景を教えてください。
手塚さん:2020年のコロナ禍で働き方が大きく変化し、在宅勤務が推進されたことがきっかけです。社内報制作においても取材に行けない中、今後についてメンバーで話し合い、「今がオンライン化するタイミングなのではないか」ということで、検討に入りました。
実は、コロナ禍の前から「オンラインにした方が良いのでは」という声もありました。それでも、弊社はプリンターなどを手掛ける会社ですし、一覧性に優れるなど紙社内報の提供価値をよく理解しています。その会社の社内報をWeb化することは、大きな決断でした。
社内報のWeb化については、経営層も含めて話し合いの場を持ちました。紙という文化も大切にしながら、環境変化に対応する一つのケースとして、社内報のWeb化に踏み切ったわけです。
―― 社内報のWeb化にあたり検討したこと、また、「社内報アプリ」に決めた理由を教えてください。
高橋さん:Web化によるメリット・デメリットを挙げた上で、さまざまな施策を検討しました。既存のイントラネットはOBOG、内定者が閲覧できない設定です。約21,000人のユーザーにPDFやメールで配信するのも現実的ではありませんでした。自社でアプリを内製する案も検討しましたが、機能追加やメンテナンスなどの工数も踏まえると、他社提供のSaaSを利用する判断に至りました。
「社内報アプリ」に決めた一番の理由は、サポート面です。導入の検討段階から、弊社が望む情報を的確・迅速に提供してもらえたことや、社内報専門会社ならではの強みとして、運用後のコンサルティングに期待できることが大きな決め手になりました。
伊久美さん:ウィズワークスが主催する、全国の社内報コンクール「社内報アワード」には以前から応募していましたし、個別相談会に参加した際にも、社内報に関するノウハウの蓄積、経験値の高さを実感しました。社内報アプリの導入によって、こうしたサポートを得られるのではないかという期待が大きかったです。
社内報を発行している部門は社内で唯一ということもあり、社内報の完成度に対して自社内で客観的に評価することは難しいです。ですから、以前から応募している全国の社内報コンクール「社内報アワード」は、レベル感の確認や改善点を洗い出す貴重な機会になっていますし、個別相談会に参加した際にも、有識者によるコミュニケーションの全体設計まで踏み込んだアドバイスが、その後の社内広報活動の参考となりました。戦略的アプローチから表現手法まで、包括的なサポートを得られるのではないかという期待が大きかったです。
高橋さん:他にも、セキュリティ面でISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の国際規格、ISO27001を取得していることも、導入要因の一つでした。
── 御社は工場勤務の方も多いと思います。社用端末(PC・スマートフォン)を持たない社員様もいる中で、不安や懸念点はありましたか?
伊久美さん:防塵の観点から工場内に紙社内報を持ち込めない職場もあり、一部の製造職場では個人ロッカーに個別に配布していました。今後は「ロッカーからスマホへ」、つまり誰もが持っている(個人の)スマートフォンに届くスマホアプリを選択することで、対応できると考えました。導入ツールの選択肢を絞っていく上で、スマホアプリがある点も重要な要素でした。
コメント数70以上!タイムリーな発信や、運営の工夫ができるWeb社内報の実力
―― 社内報アプリを使ってみて、どんな変化がありましたか?運営側としての感想を教えてください。
伊久美さん:即時性の高い情報を発信できること、その反響をすぐに確認できることに、大きな手ごたえを感じました。弊社の記事が「Yahoo!ニュース」のトップに表示されたことを、Web社内報に載せたときのことです。速報的に「Yahoo!ニュースのトップに載りました」とたった3行の記事を出したところ、なんと73件ものコメントが届きました。タイムリーな情報発信でこれだけの反響があるのは驚きでしたし、オンラインならではの双方向性を実感しました。
安江さん:私は取材の際の引き出しが増えたと感じています。例えば、紙社内報では素材をデザイナーに提供して初校ができあがりますが、社内報アプリは直感的に使えるCMSなので、自分の手で素材をレイアウトし、記事化していきます。取材時にも「ここにこんな写真を入れようかな」と、記事の全体的なデザインをイメージして素材を集められるようになりました。
清水さん:社内報アプリには記事制作用のテンプレート(人物紹介型、画像中心のギャラリー型など)が用意されています。「使いたいテンプレートを選択して、そこに文章や写真を当てはめていく」という手順が分かりやすく、ありがたいです。
―― 読者からの反応はいかがでしょうか?
伊久美さん:「動画で見られるのがうれしい」という声が多いです。社長メッセージを動画で配信したのですが、普段社長に会う機会が少ない社員にとっては、社長の存在は遠くなりやすいため、動画で気楽に社長のスピーチを見られて、社長を身近に感じることができたようです。
他にも、スマートフォンからも気軽にアクセスできて便利になった、紙社内報の時よりも新商品の画像を大きく掲載でき、より見やすくなったという反響もありました。
高橋さん:加えて、社員からの寄稿や取材依頼が増えました。Webだとタイムリーに情報発信できるので、紙に比べて掲載されやすいと思われているのかなと思います。より身近な媒体として感じてもらえている気がします。
読者数アップにつながった導線改善、読ませる仕掛けづくり
―― 約2万人というユーザー規模ですが、御社は大変閲覧数が多い点が特長的です。ここまで閲覧数を増やすために実施されたことがあれば教えてください。
高橋さん:弊社のイントラネットのトップに、社内報アプリに遷移する入り口をつくったことが大きいと考えています。社内報へのアクセス経路を調べると、大半がイントラネット経由です。また、導入から3カ月たったころにグループ会社の閲覧が低いことが分かり、グループ会社の総務担当者に連絡し、個々の会社が持つイントラネットにも同じように「社内報アプリ」への入り口をつくってもらいました。これも閲覧数に寄与したと考えています。効果測定機能を活用し、ユーザー数アップにつなげました。
―― 御社の記事のタイトルやリードは、思わず目を引くものが多いですよね。
伊久美さん:紙からWebに変わって感じたのは、「Web社内報は、マーケティングだな」ということです。紙は配布するのでそのまま読んでもらえますが、Webは社員が自らアクセスしないといけません。つまり、「売れる仕掛け」ならぬ「読ませる仕掛け」が必要です。アクセスしたいと思わせるためには、伝えたい世界観を核にして、「誰に」向けて「何を」「どう言うか」、企画の段階からターゲットと提供価値を考え抜く大切さを感じたのです。
私はこの変化をとてもポジティブにとらえています。導入直後にウィズワークスの方からタイトル、見出しの付け方、Web社内報に適した文字数などを教えてもらったことも参考にしながら、日々工夫して記事を作っています。タイトルの付け方一つで読まれる記事になったり、リードで興味関心を引いたり、動画も活用できたりと、幅が広がりました。
また、「社内報アワード2021」でシルバー賞を受賞した「ヒット商品シリーズ3部作」では、広告のコピーを勉強して「ヒット商品の裏側に迫る!」「ヒット商品はこうして創られた」「ヒット商品を生み出す販売戦略」というタイトルにしたところ、社員の興味を引き、閲覧数にも好影響をもたらしました。
―― 今後、「社内報アプリ」で取り組んでみたいことを教えてください。
伊久美さん:閲覧数を増やすのは、結局、地道な活動になると思います。読まれやすいテーマやタイトルの傾向もだいたい分かってきたので、まずはこうしたノウハウを生かしながら数値を伸ばしていきたいです。また、取材した社員は社内報にアクセスしてくれますし、一度閲覧の習慣がつくとその後も継続的に見てくれますので、取材活動を増やすことも大事だと感じています。
今後の目標は、社員参加型のコミュニケーションプラットフォームをよりしっかりと築いていくことです。社内報アプリは、誰でも共感した記事に「いいね!」をつけられて参加型コミュニケーションが可能ですし、取材先も「いいね!」の数を気にされていて、アプリを通じて思いが届いているようですね。
それから、グループ会社との連携を深めるため、関係会社が作成したコンテンツ配信も進めています。弊社は、より自由闊達で風通しの良いコミュニケーション環境を築くことを目標に掲げており、紙社内報からWeb社内報へ変えたことの意義はそこにもあります。Webだからこそできる、双方向性をいかしたコミュニケーションプラットフォームへと成長させて、グループ会社を含めた全体で「このサイトに行けば情報が得られる、コミュニケーションできる」という認知を広げていきたいです。
―― ありがとうございました。