医薬品、医薬部外品、芳香剤など、さまざまな製品を手がける小林製薬株式会社。紙社内報をWeb化して、広報担当者自らがYouTuberならぬ「KobaTuber(コバチューバー)」として積極的に動画に出演するなど、Web社内報ならではの取り組みでファンを育てています。Web社内報を浸透させる工夫・苦労を、担当者の七條純さんに語っていただきました。
【導入目的】
- タイムリーな情報共有
- 効果測定を活用してPDCAを回す
- 経営方針の浸透
- 社内コミュニケーション活性化
【課題】
- 新型コロナウイルス感染症拡大を機に始まった、働き方の変化への対応
- 紙社内報における情報共有のタイムラグの解消
- 海外社員に向けた情報共有ツールの確立
- 活字に変わる動画などの社員ニーズに応える
【効果】
- 動画を活用した新しい情報発信が可能になった
- 社内の各部署からの投稿依頼や持ち込み企画が増えた
- 社内提案制度でWeb社内報への提案が相次ぐなど、社員の関心が高まった
- 効果測定を活用し、PDCAを回していけるようになった
■小林製薬株式会社
- 事業内容:医薬品、医薬部外品、芳香剤、衛生材料などの製造販売事業
- 従業員数:連結3,473人、単体1,589人(2020年12月31日現在)
- 広報担当者様:グループ統括本社 広報・IR部 七條純様ほか15名(広報メンバー全員が社内報編集員として記事制作に参加)
プッシュ型メディアでも読まれなければ意味がない
―― 紙社内報からWeb社内報へ切り替えた背景は何でしょうか?
七條さん:後押しになったのは、やはり新型コロナウイルスの感染拡大です。ただ、それ以前にもWeb化の提案があり、広報内でも検討はしていました。当社は紙社内報を隔月で配布していたのですが、内容によっては数カ月前の情報を掲載していたり、海外拠点にはそこからさらに冊子を郵送していたり、紙では情報の共有化のスピードが非常に遅いと感じていました。
コロナ禍により在宅勤務が進み、社内には人がいなくなってしまい、社内報が配れなくなったことで、オンライン化への動きが一気に加速しました。
―― Web化への不安や懸念の声はありましたか?
七條さん:紙社内報は「プッシュ型」のメディアで、一人ひとりに配布されるので読まれやすい反面、Webはユーザー自らがアクセスしないといけないので読まれないのでは、という懸念が最初はありました。
ですが、紙で配布しても、読まれずに机の横にポンと置かれていたら意味がないんですよね。Webはアクセスログが取れるので、明確な目標設定ができて、PDCAを回しながらブラッシュアップできるのが強みです。最終的にはWeb化によるメリットの方が大きいと判断しました。
また、当社は中期経営計画で「国際ファースト」を掲げ、海外での事業展開に力を入れています。海外の社員に対する情報共有方法を考えても、Web社内報の方が適していると考えました。
―― 「社内報アプリ」の導入を決めた理由は何でしょうか?
七條さん:求めているサイトのインターフェースに近かったことです。当初は社内SNSのようなツールも検討したのですが、当社は紙社内報で隔月発刊をしていたので、社内報をWeb化しても、ニュースサイトのようなツールで定期配信するスタイルの方が合うと思っていました。社内報アプリはそのイメージに最も近かったですし、英語や中国語など多言語配信に対応していること、スマホアプリがあること、当社のセキュリティ基準をクリアしていることなど、求める要素がそろっていました。
他にも、全国の社内報コンクール「社内報アワード」を主催するウィズワークスならば、社内報に関する情報提供が期待できることも決め手になりました。
担当者の人間らしさが親しみを呼ぶ。読まれる社内報への工夫
―― 2021年4月にスタートしたWeb社内報「AOITORI」は、タイトル画像が作りこまれていて、ついクリックしたくなりますね。
七條さん:タイトル画像はウィズワークスから聞いたグラフィック作成ツールを活用して、レイアウトや色合い、フォントなどを工夫して作っています。社内報アワードのオンラインイベントでも「動画はサムネイル(タイトル画像)で決まる」という話がありましたが、通常の記事でも同じだと思います。
―― 「新製品を試してみた」企画で、七條さん自ら、歯磨き粉「ゼローラ」の使い心地をレポートする動画を拝見しました。文字情報だけでは伝わりにくい「殺菌感」がよく分かりました。
七條さん:紙社内報ではできなかった動画コンテンツを、積極的に発信しています。「ゼローラ」は、歯周病・虫歯・口臭・ネバつきなど、口の中の様々な原因菌を殺菌する「殺菌力」が強みで、それを実感させる味にもこだわって開発されました。でも、「味」って、いくら文字で書いても伝わりませんよね。なので、思い切って自分が商品を試してそれを動画にしてみました。動画だからこそ伝えられる情報量や臨場感があると思います。
社内報をWeb化してからは、社員からも「KobaTuberだ!」とイジられるようになりました。紙社内報の担当歴は5年以上で、何度かインタビュアーとして誌面に登場していましたが、声を掛けられることは一度もなかったんです。きっと動画だとより人間らしさが伝わり、私自身や社内報に親しみを感じてもらいやすいのだと思います。また、記事を読んでいただいて、それがしっかり印象に残っている証とも言え、目的を果たせていると実感しています。
―― 他にも、Web化による効果を感じていることはありますか?
七條さん:Web社内報にしてから、他部署からの持ち込み企画が増えました。紙社内報はページ数がある程度決まっており、制作会社とのやり取りも含めて、決まった工程で進めることになるので、記事掲載を相談するハードルが高かったのかもしれません。Web社内報は自社で記事制作を完結できるので、気軽に企画を持ち込めるようになったのではと思います。
他にも、「社内報をこう改善したらいいのでは」という提案が数多く集まるようになりました。それだけ社員の関心が高まっているのだと感じます。
「ここでしか読めない情報」が社内報のファンを育てる
―― 導入後は、PDCAを重視しながら運営されていますね。閲覧数を上げる取り組みや、Web社内報のファンをつくる工夫を教えてください。
七條さん:効果測定については、当社のシステム部門にも協力してもらい、ログイン率と閲覧率を事業部ごとに集計しています。数字が低い部署にはその上長に「そちらの部署に関係のある記事なので、見るように勧めていただけませんか?」とお願いするなど、具体的なアクションができるようになりました。また、閲覧を伸ばしたい部署の人に記事に登場してもらうなど、その部署に関連するネタを企画することで、閲覧アップにつなげています。
ファンづくりはまだ道半ばですが、意識しているのは「ここにしかない情報を提供すること」です。単純に会社の出来事を紹介しているだけのサイトだったら、社内報を見ようとはなかなか思えないはずです。
―― 「ここにしかない情報」とは、具体的にどういったことでしょうか?
七條さん:先ほどの「新製品を試してみた」企画はまさにそうですし、ニュースリリースには載っていない、社員にしか読めない特別な情報を届けたいと考えています。他部署から挙がった企画も、どうしたら情報の付加価値が高まるか、企画段階から一緒に検討しています。
今回Web社内報をスタートするにあたって、私から人事部や総務部、サステナビリティ戦略推進グループに社内報への記事投稿を呼び掛けました。それまでは、オンラインの情報共有手段はメールか、社内のイントラネットでしたが、どちらも通常業務の情報の中に埋もれやすいです。Web社内報はそのどちらとも違う、「ここにしかない情報を届けられる、可能性が広がる情報共有ツール」として使ってほしいという思いもありました。
だからこそ、他部署の企画も一緒に構成を練り、インタビューの質問項目を考えたり、インタビュー当日にもフォローをしたりしています。完全にフォローできているわけではないのですが、「一緒にいいものをつくりましょう!」という姿勢でいたいですね。
―― 動画で部署(グループ会社)紹介企画も実施していますね。
七條さん:先日、物流関係のグループ会社を紹介する企画で動画をつくりました。自分は撮影に行かず、大阪本社の広報担当者に撮ってきてもらったのですが、私は事前にYouTubeの工場紹介動画をたくさん見て勉強し、「こういうイメージで撮ってほしい」と細かくディレクションしました。
苦労しましたが、そのグループ会社の社長が直々に「記事の出来栄えに大変満足しています」と連絡をくださったんです。これをきっかけに、社長にもWeb社内報のファンになっていただいたかなと感じています。
―― 最後に、今後の目標を教えてください。
七條さん:動画には引き続き力を入れていきたいですね。また、現状は他部署の持ち込み企画に追われやすいので、発行目的である「経営理念の浸透」に沿った企画を、きちんと計画立ててやりたいです。
すでに社長と社員による座談会記事を公開しており、反響を呼んでいます。社長自身も、他の役員に「社内報をもっと活用して情報発信していこう」と呼び掛けているそうで、嬉しい変化が生まれつつあります。
将来的な方向性としては、より双方向性の高いメディアにしたいです。編集部からだけではなく、社員からの発信がしやすい環境にして、社内報を自分ごと化してもらえたら嬉しいです。まだ模索中ですが、自分が動画に出ることでいろいろな人から声がかかるようになったこともあり、他の社員を主役にした動画をつくってみるのもいいな、と思っています。
―― 夢が膨らみますね。本日はありがとうございました。