「‘なんかいいね’があふれてる」をブランドスローガンに、大阪・難波から和歌山・高野山・関西空港などを結ぶ関西の私鉄、南海電気鉄道株式会社。同社では長年紙社内報を発行していましたが、さらなる従業員エンゲージメントの向上やDX推進を目指して2021年7月に社内報アプリを導入。PCを持たない現場社員が約7割を占める中、約1年半の運用を経て社員同士が「なんかいいね」を共有するツールへと成長してきました。現場社員への浸透に向けた工夫について伺いました。
【導入目的】
- 従業員エンゲージメントの向上
- デジタル時代に対応したインターナルコミュニケーションツールへの転換(DX推進)
【課題】
- PCを持たない技術系社員、乗務員など現業職場社員への浸透
- 適切な情報管理・セキュリティ面での対策
- 60年以上の歴史ある紙社内報からの移行
【効果】
- コメント機能を通じてアイデアの提案や他職場の挑戦を後押しするやりとりが生まれ、双方向コミュニケーションを実現
- タイムリーな情報発信が可能に
■南海電気鉄道株式会社
- 事業内容:鉄道事業、開発事業、流通事業、土地建物賃貸事業
- 従業員数:2601人(2022年3月時点)
- 広報担当者様:社長室 総務広報部 小田明紀様、吉岡頌平様、角谷彩織様
目次
DX推進のもとで、歴史ある社内報をデジタル化。現場への浸透が課題に
――社内報アプリの導入経緯を教えてください。
吉岡さん:コロナ禍において「従業員エンゲージメントの向上」が当社内での重要なテーマになってきたことです。在宅勤務や時差出勤が増え、社員同士のつながりが希薄になるという懸念から、コミュニケーションの活性化が重要な経営課題になってきました。
加えて、業界全体にDX(デジタルトランスフォーメーション)の流れが押し寄せてきたタイミングだったこともあり、社内報をWeb化してインターナルコミュニケーションをさらに促進させる方針に変わったのです。
――導入時に検討したことを教えてください。
吉岡さん:一つは費用を抑えることです。二つ目はセキュリティが担保されたスマートフォンアプリがあるかどうか。当社は、乗務員や技術系職員などPCを持たない現業職場の社員が全体の約7割にのぼります。社員が自分のスマートフォンで閲覧でき、かつ情報漏洩のリスクが少ないことはとても重要でした。
そして三つ目がサポート体制です。それまで年8回配布してきた紙社内報には60年以上という長い歴史がありました。新たなデジタル版もしっかりと運用するためには、丁寧にフォローしてもらえるサポート体制があるというのが大事でした。それらがそろっていたのがウィズワークスの社内報アプリでした。
――現場の社員の方が多くを占めているので、その方々に社内報アプリを浸透していけるかについては、強い課題感を持ってらっしゃいましたね。
角谷さん:そうですね。「現場の社員に見てもらえるように」ということで、タイトルや記事の作り方、企画についても、ウィズワークスの担当者には運用前からたくさんアドバイスをいただきました。
吉岡さん:あとは、データ分析ですね。KPIの設定の仕方について、他社事例などを参考にさせてもらったのはとても助かりました。自分たちだけではどう設定したらいいかわからなかったと思います。
おかげで、導入直後の社内アンケートでは意外にポジティブな意見が多く、「大きくつまずかずにスタートを切れたのかな」という印象でした。一方で、「紙社内報の方が良かった」「スマホで読むと写真などが小さいので読みにくい」といった意見もあり、どう改善していくか、特に現場の閲覧数をどう上げていくかが課題になりました。
現場に出向き一人ひとりにアプローチ。アナログも駆使してWeb社内報を浸透
――現場社員に読んでもらうために、どのような工夫をしたのでしょうか?
小田さん:現場の挑戦を後押しする企画や、「なんかいいね」と言いたくなる話題を積極的に取り入れています。「現業職場のトライ」や「お客さまからのありがとう」は、その一例です。
小田さん:特に反響が大きかったのは、小学2年生の男の子からの「新聞コンクールに応募するのでラピートを取材したい!」という申し出に対して、弊社のサービス担当が対応した事例を紹介した記事です。
これは「いいね」の数も非常に多く、本社や現場社員から直接「よかったよね」と声をかけてもらいました。「社内だけでなく社外に発信しても良い記事!」とのコメントもあり、やってよかったと思います。
――記事の作り方やコメントの盛り上げ方も上手だなという印象です。
角谷さん:タイトルの付け方、文字量を減らし楽しくリズミカルに読める長さにすることには気を付けています。スマホでの見え方は必ずチェックしますし、サムネイルも「楽しそう」と思わせるように意識してきました。
コメントがあったときのフォローにも気を配っています。各部署の取り組みや困りごとを紹介し、それに対するアイデアをコメント欄で募る企画が人気ですが、担当部署の社員、もしくは編集部から必ずコメントに返信しています。
社内アンケートでも、「コメントしても返してもらえなかったらさみしい」という声があったので、コメントが来たらきちんと対応するというフォローをしているうちに、だんだんコメントが集まりやすくなってきました。
アイデア募集企画は、他部署の様子がよく分かり、ボトムアップでいろいろな意見を集められます。社内報の発行目的である「風通しの良い職場づくり」や「変える、変えていく風土の醸成」にもつながる企画で、デジタルの大きな特長である「双方向性」を生かしています。
――他にも効果的だった閲覧促進施策があれば教えてください。
角谷さん:アプリのダウンロードを促す紙のカードを作って、編集担当者が実際に現業現場の事務所に出向いて、このカードを一人ひとりに配布した施策です。カードを見せて「このQRコード読み込んでください」と呼びかけながらアプリを入れてもらい、実際にログインしてもらうところまで、お手伝いして回りました。
小田さん:一気に閲覧数が上がりました。普段PCを見ない現業職場には、アナログで告知するというのも効果的なのかなと思います。
――紙社内報との併用にも取り組んでいらっしゃいますね。
小田さん:社内報アプリの運用開始後、紙社内報の発行をお休みしていましたが、2022年の秋に紙社内報を復活させました。やはり、社内報アプリだけでは到達しにくい層にも情報を届けるため、年2回、紙を発行することになったのです。
とはいえ、あくまで社内報アプリがメインで、紙社内報はその補助という位置付けです。紙ではデジタル版で出した記事のダイジェスト版を掲載しています。
誌面には「ダイジェスト版で公開中」という文言とともにデジタル版の案内を大きく載せて、「デジタル版も見てくださいね」と誘導しました。
すると、アンケートでも、「紙社内報を見てデジタル版にログインした」という人が約250人ほどいることが分かりました。こういったアナログな告知をしていったことで、少しずつデジタル版も浸透してきたのかなと思います。
アンケート総数は3倍以上。双方向を実現できる社内報に成長
――あらためて、社内報アプリ導入のメリットや今度の課題をどう感じていらっしゃいますか?
吉岡さん: 社内報の発行目的として、「経営理念の浸透」「風通しの良い職場づくり」「変える、変えていく風土の醸成」を掲げています。社内報アプリを導入する際には、Webならではの双方向性、即時性、動画発信をうまく活用し、この目的に寄与することを中心に据えていました。
双方向性という点では、コメントやいいねもかなり増えて、昨年の「社内報アワード」でも賞をいただき、自信につながったかなと感じています。
角谷さん:即時性という点でも、紙なら会社の大事なニュースを伝えるのに2カ月かかっていたところが、即日、もしくは数日後には発信できるようになりました。今の時代に合ったインターナルコミュニケーションツールだと感じます。
吉岡さん:制作する側としても、本当に楽になりました。
紙の社内報なら、校了ギリギリまで作業していたのが、社内報アプリ導入後は余裕ができました。後で差し替えができたり、別の記事にリンクを追加できたりと、できることの幅が広がっています。アンケートでも「情報伝達が早くなった」という声は多いです。経営理念の浸透や動画活用は、さらに力を入れていきたいと思っています。
角谷さん:社内報アプリ導入後に、社内報を通して2回アンケートを取りましたが、2回目は1回目に比べて3倍以上の回答が集まりました。この数字を見ると、少しずつデジタル版に愛着を持ってくれているのかなと感じています。
小田さん:現場の職場長もかなり協力をしてくれるようになりました。「社内報を見ておくように」と積極的に現場に声をかけてくれていますし、先ほどのカードを配るときも非常に協力的です。「こんなネタどう?」といろいろな話題を直接提供してくれるようにもなりました。
――最後に、今後の抱負をお聞かせください。
小田さん:もっと現場に浸透させたいですね。私も現場出身なので分かるのですが、現業職場社員は24時間社員と一緒に過ごすんです。社内報アプリが、生活を共にする社員同士のコミュニケーションのきっかけになるとうれしいですね。
角谷さん:そのためにも、硬い話題だけではなく、各職場の取り組みや人を紹介しながら、分かりやすく親しみやすい記事を作って、社員に「ためになるよね」「毎週見たくなるね」と思ってもらいたいです。
吉岡さん:私は「風通しの良い職場づくり」に貢献するような社内報に育てていきたいですね。「‘なんかいいね’があふれてる」という当社のブランドスローガンの通り、社内報を通して「なんか楽しそう」という雰囲気を伝えて、上意下達ではなく、双方向に何でも言いたいことが言えるような社風づくりを後押しできたらと思います。
――現場への浸透の工夫、今後の抱負まで、熱意のあるお話を本当にありがとうございました。